【リリース短信 -3- 】 簡易式溶存水素計は温泉水の測定に使えない

簡易式溶存水素計(ENH-1000等)で温泉水を測定し、「溶存水素がある」と誤認する事例 (山中温泉、俵山温泉ほか) が増えています。

簡易式溶存水素計は、溶存している水素 (H2のことです。温泉分析書に記載のあるH+のことではありません。誤解している方が非常に多いので敢えて付言しておきます) を直接、選択的に測定するのではなく、酸化還元電位計を応用した簡易的な測定器です。

仕組みとしては、対象となる液体の酸化還元電位を測り、内蔵している検量線データに基づいて、溶存水素量を推定して算出するものです。

しかし、判断基準が酸化還元電位のみであるため、水素以外にも還元性の物質が混じっている液体や、基本的に還元性である温泉(塩素消毒された湯は除く)では、測定した酸化還元電位をすべて溶存水素量に換算してしまうので、溶存水素がなくても「あり」となってしまいます。また、pHの違いは一切考慮されませんので、酸化還元電位の特性によりpHの高いアルカリ性の水素水では溶存水素量が実際より多く表示されますし、逆に酸性になると溶存水素があっても「なし」と表示されます。

つまり、この測定器は純粋な、pH7前後の「水素水」のみを対象としていて、それ以外の液体を測るということは想定していないのです。よって、酸化還元電位の観点を踏まえれば、pH7前後の純粋な水素水であればある程度、参考程度の値を得ることができると考えられますが、それ以外の用途(たとえ水素水でもpH7前後以外では)では役に立たないのです。

さらに付言すれば、酸化還元電位計の電極は管理や使用の状態により、正しい値を示さなくなることが多々あります。酸化還元電位計であれば、知識と経験のある方であればそのことを熟知しているので回避が可能ですが、簡易式溶存水素計ではその確認が困難です。よって、もともと推定値で示される値に、さらに不確かさの要因が加わるため、オフィシャルな用途に使用することはできません。

このことは水素水や温泉水の科学的な性質や酸化還元電位の挙動を熟知している人であればイロハのイ、すなわち極めて基本的な話です。簡易溶存水素計のメーカーのでも、「単純な水素水以外では使えない」と明言しています。にもかかわらず、自ら「専門家である」と名乗りながらも、こうした理屈を一切知らず、また、説明しても理解することなく、温泉に水素があると声高に主張を続けている大学教授がいて、結構困った状況になりつつあります。

【簡易溶存水素計についてのまとめ】
1. 温泉水等の還元性の溶液の測定には使えない
2. pH7前後の純粋な水素水であれば個人の参考程度には使える
3. 純粋な水素水でも、酸性やアルカリ性の領域では使えない
4. よって、対外的に示す水素水の評価や商品販売の宣伝等には使うべきではない

この詳細については、日本温泉科学会「温泉科学」第64巻3号の「天然温泉における溶存水素(H2)」と題する論文で詳しく報告しています。論文の解説版については、こちらをご覧ください。

【2015年11月30日追記】
この件に端を発する俵山温泉の問題について未だ解決の兆しが見えず、官民総出で誤った情報の流布が続いているため、以下のページで問題提起しました。
「俵山温泉、山中温泉に高濃度の溶存水素は存在しない」