【温泉雑感 -2- 】 説明責任

先日、ある二つの温泉地(仮にA、Bとします)に対して、あることについて質問のメールを送りました。いずれも、その分野に少しでも明るければ「あり得ない」とすぐに判断できる初歩的な内容なのですが、それを「ある!」と誤認してホームページで宣伝をしています。しかも、温泉地Aは某国立大学のC名誉教授、温泉地Bは某私立大学のD教授が関わっていて、お墨付きを出しているのです。実際、それぞれの温泉地を訪ねてみました。温泉地Aでは、飲泉場の前で地元の関係者らしい方が観光客に「○○なので効果がありますよ」と宣伝をしています。温泉地Bでは、たまたま視察団が来られていたようで、地元の旅館組合の方と思われる案内人が泉源を前にして、説明をされている場面に遭遇しました。そこでさりげなく視察団に混じって耳を傾けていると、やはりここでも「○○なので素晴らしい泉質だ」という説明をされています。それが間違いであることに疑いの余地はないのですが、温泉地A、Bの方は大学教授からのお墨付きとあって、すっかり信じ込んでいます。そのことについて温泉地A、Bの方々を責めるわけにはいきませんが、それだけにずいぶん酷な話でもあると思います。

そこで、「あり得ない」ことが、なぜ、「ある」という判断に至ったのかを知りたくてメールを送ったのです。温泉地Aからは数日後、「我々ではわからないので、C名誉教授に聞いてほしい」と直接電話がありました。そこで、C名誉教授に同様のメールを送ったのですが、3週間以上たっても音沙汰なしです。温泉地Bからは「後程、担当者からご返事します」という自動返信メールがあっただけで、同じく3週間以上たっても何の連絡もありません(追記:最初のメールから1カ月半経過しても返事がなかったので、具体的な事実関係を提示して2度目のメールを送りましたが、返信はいただけませんでした)。

温泉は物語の世界です。温泉地の歴史で言えば、熊や鹿、あるいは弘法大師が温泉を発見したという話に始まり、効能で言えは胃腸に効く、傷に効く、最近に至っては美肌やデトックス効果など、その真偽は別として、温泉を彩る物語は尽きることがありません。たとえこれらの話が事実でなかったとしても、温泉を楽しむための余興ということで聞き流すことができるでしょう。

しかし、温泉地AとBの話は、これとは様相が全く異なります。話は科学的な内容であるうえ、「あるはずがない物」が「ある」と断言され、数値まで明確に示されています。しかも、温泉地A、Bともにホームページで温泉の効能に結びつける形で明確に謳われているのです。

この問題は、科学的な内容を保証したC名誉教授、D教授についての部分と、それを宣伝している温泉地側の対応の部分の二つに切り分けて考える必要があります。我々が問題視しているのは前者の部分についてですが、後者の部分である温泉地の宣伝内容については、たとえ質問者が誰であっても説明責任があるはずですから、各温泉地の対応には自覚がなく、失格と言わざるを得ません。

いずれにしても、両者ともに説明責任が発生する内容です。それにまともに「答えられない」(つまり自信がない)、あるいは「答えたくない」「答える必要はない」と考えているとすれば、世に発表したり広告宣伝をする資格はないのでは、と思います。

【追記 2015年4月】
投稿から1年経過しても事態が改善される見込みがなく、もはや伏字とする理由もないので、以下追記いたします。
温泉地A→山中温泉(石川県)
温泉地B→俵山温泉(山口県)
某教授C→廣瀬幸雄氏(金沢大学名誉教授)
某教授D→松田忠徳氏(札幌国際大学教授)

【2015年11月30日追記】
この件に端を発する俵山温泉の問題について未だ解決の兆しが見えず、官民総出で誤った情報の流布が続いているため、以下のページで問題提起しました。
「俵山温泉、山中温泉に高濃度の溶存水素は存在しない」