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2004年9月15日 |
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2004年9月11日(土)、日本温泉科学会第57回大会において法政大学工学部・大河内正一教授(工学博士)と当研究所の共同研究による「塩素殺菌した温泉水のORP評価に基づく泉質変化」を発表しました。発表翌日に
は毎日新聞全国版でも紹介されました。見出しなどでややオーバーな表現があったものの、おおむね新聞報道の通りです。
当日は、当所のホームページは1日で2万アクセスを超え、関心の高さをうかがわせました。以下、論文と解説です。
論文はこちらからご覧ください 》》》温泉科学第54巻4号(平成17年3月発行)の抜き刷り
■塩素を投入しても温泉は変化しないのか
我々が調査を行うきっかけとなったのは道後温泉の問題です。すでにご存知のように、道後温泉への塩素投入は温泉ファンに限らず、広く一般の方々の関心を呼び起こし、大きな波紋を呼びました。それを打ち消すかのように松山市は財団法人・中央温泉研究所などに調査を依頼し、「塩素投入しても泉質には変化が見られなかった」と発表しました。
この道後温泉をめぐる一連の報道では、あたかも「いかなる泉質の温泉でも塩素を投入しても泉質や成分は変わらない」といった印象を与えました。確かに道後温泉の場合は成分の薄い単純温泉なので、塩素を投入したかといって大きな成分変化や泉質変化は起こらないでしょう。
むしろ、変化のしようがないと言った方が正確なのかもしれません。
しかし、泉質的、成分的に大きな変化が見られなかったとしても、本来の温泉が持っている還元性という特性は失われているはずです。我々の視点からすると、松山市の発表は不十分なものでした。このことから、塩素消毒を行うと温泉の本質的な特性が失われるという極めて当たり前なことを、科学的な指標に基づいて証明する必要がありました。
我々が行った道後温泉、有馬温泉の調査の前提は次のとおりです。
「酸化還元電位(ORP)の観点から天然状態の温泉はすべて還元系であり、それ
は温泉の本質的な特性の一つでもある。しかし、塩素消毒された温泉水は成分変化の有無、程度に関わらず酸化系となり、本来の「還元性」という特性がまったく失われた状態に変化する」
つまり、塩素の投入により温泉の特性である還元性が失われ、泉質によっては成分変化にとどまらず、泉質変化を招くということなのです。
■実例1:道後温泉本館 |
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道後温泉本館の源泉(▲)、神の湯(●)、霊の湯(●)のORP、pHの関係
本図で示す酸化還元電位は、25℃に温度補正をした標準水素電極基準による値です |
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調査を行なったのは2004年4月初旬の午前の早い時間でした。事前にあまり塩素臭はしないと聞いてはいましたが、当日の遊離残留塩素濃度は0.06ppmと極めて低い値でした。大勢の人が頻繁に出入りする公衆浴場で濃度を一定に保つのは難しいものです。全国的に見ると、塩素臭で嫌われないために低めに抑えたり、実は入れていないという施設は多く見られます。
遊離残留塩素濃度は0.06ppmと低いものですが、
酸化還元電位(ORP値)は明らかに酸化系であることを示しました。単純温泉は塩素投入で成分変化が起こりにくい反面、酸化還元電位は素直に酸化系を示したのです。
成分変化は少ないとしても、温泉の本質的な特性である「還元性」はすでに失われて
います。その泉質的な特徴と還元性という観点から考えあわせると、普通の銭湯の湯とあまり変わらない状態に変化しているといっても過言ではありません。
入湯者数が1日3,000人超という道後温泉本館では塩素消毒は止む得ない措置ではあることはわかりますが、愛媛県全体の温泉に対して条例により塩素消毒を
一律に義務付けるということはいかがなものなのでしょうか。
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■実例2:有馬温泉「金の湯」「銀の湯」 |
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金の湯(源泉▲、浴槽●)、銀の湯(源泉▲、浴槽●)のORP、pHの関係
本図で示す酸化還元電位は、25℃に温度補正をした標準水素電極基準による値です |
有馬温泉「金の湯」の協力を得て、「金の湯」「銀の湯」を調査したのは2004年6月12日のことでした(上図)。
金の湯は、二つの源泉を混合したお湯を使用しています。源泉は金の湯から数百メートル離れた場所にあり、とくに2号源泉は秀逸でした。バルブを開いてもらうと、CO2で真っ白な源泉が勢いよく噴出しました。
温泉分析書の数値からは窺い知れない温泉の素顔です。
さて、真っ白な源泉と異なり、金の湯浴槽は赤く濁ったお湯で有名です。これは空気に触れて起こるエイジング(老化)により、2価の鉄が3価に変化することによるものです。とくに金の湯の泉質では、エイジングが急速に進むことが特徴です。実際、源泉をサンプリングした時も、わずか数分で変色しました。
このことは、塩素消毒によっても起こります。しかし同時に、塩素も消費されてしまうので、
還元性の強い含鉄泉で酸化力を発揮させるには大量投入する必要があります。含鉄泉や硫黄泉などには塩素消毒は向いていないというのが一般的な理屈です。 |
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金の湯では塩素の自動注入を行なっています。遊離残留塩素濃度を測定すると0.09ppmと低めの数値でした。もともと金の湯のような泉質では塩素を入れても化学反応によりどんどん消費される一方で、なかなか効き目は表れにくいと考えられます。
ここで注目したいのは、源泉 ▲
と比べて浴槽はかなり酸性に傾いていることです。これは塩素と鉄イオンの反応により強酸性の塩化鉄に変化していったためと考えられます。
銀の湯については▲と●の関係です。もともと銀の湯は「塩素臭がきつい」という評判をよく耳にするのですが、当日の遊離残留塩素濃度は2.2ppmもありました。これはかなり強力なので、小まめな管理が必要です。
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■まとめ |
道後温泉と有馬温泉における塩素消毒の事例について概略を紹介しましたが、このことは他の全国の温泉施設でも共通して言えることです。この論文では「塩素消毒」や「循環ろ過」について否定しているわけではありません。現代の温泉を語る上で、これらのあり方は避けて通ることはできません。しかし、そのためには根本的に明らかにして、整理しておかなければならないことがあるのです。
今回、我々は酸化還元電位の観点から、温泉の塩素消毒の問題について明らかにしました。
塩素消毒による個々の成分変化・泉質変化は、塩素の投入量や泉質により異なります。しかし、酸化還元電位の観点では塩素消毒された温泉水は明らかに本来の温泉の姿とは異なる結果を示します。このことから、温泉の塩素消毒による変化の結論は以下の通りとなります。
1.温泉本来の還元系という特性がまったく失われ、酸化系という天然状態(人為的に手の加わっていない、自然のまま)の温泉ではあり得ない異なる状態に変化する。よって、酸化系となった温泉を天然温泉と呼ぷのはおかしい。
2.酸化系となったお湯は本来、温泉に期待されていた還元状態(*1)とは異なるため、皮膚に及ぼす影響(*2)も懸念される。
(*1)皮膚の老化を抑制が期待される還元作用。
(*2)皮膚を酸化の傾向に導かせる。また、個人差や残留塩素濃度により皮膚炎、気管支炎、結膜炎を起こす可能性が医学的(臨床的な見地)に指摘されています。アトピー性の患者(とくに子ども)においては、残留塩素濃度が0.5ppm〜1.0ppmになると影響が強いため、一部の医学会からは「残留塩素濃度を0.5ppm以上にすべきではない」と提言も出されています。
《追記 2005.01》
2005.01.13付け北海道新聞ほか、の報道によりますと、札幌市西区の温水プールで、残留塩素が同施設において計測可能な上限値である2.5ppmを超えたため、札幌市スポーツ振興事業団がプールの使用中止の指示を出したとのことです。原因は塩素注入装置の弁が故障したことによるそうですが、これに関連して、利用者である女性2人が「のどがひりひりする」「腕に発疹ができた」などの症状を訴えたほか、11人から「水着の色が落ちた」
などの申し出があったとのことです。 |
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