温泉と観光の principle を追及する純民間の調査研究・コンサルティング会社です

 

 
 

 

 

所説 2012.11.13

 

「おんせん県(温泉県)」は一般的な慣用句

大分県が観光のキャッチフレーズとして、「おんせん県」という名称の商標登録を申請したことについての波紋が広がっています。ここ数日、当所にもテレビ、新聞各社からの問い合わせの電話が続いているほか、ホームページへのアクセスも急増しています。当所が環境省のデータに基づいて毎年公開している「データでみる日本の温泉2012版」を閲覧した 複数の一般の方がそれぞれのブログ等でデータを引用し、それが拡散していることが理由のようです。この件については予てより気になっていたことでもあり、問い合わせも続いていることから当所なりの見解を述べてみたいと思います。

まず、この件で一番気にかかることは、「おんせん県」は当所でもごく日常的に使うほど一般的な言葉であるという点です。例えば、当所ではマスコミ等から温泉についての取材やインタビューがあり、該当する話の対象となる県が温泉で盛んであったりすると、ほぼ常套句として「 おんせん県」という言葉を積極的に使っています。報道によると今回の件では群馬県が異議を唱えているそうですが、その群馬県についても、当所では「 おんせん県」であると思っています。かつて 、とある件で群馬県の上毛新聞社からコメントを求められた際でも、「群馬は温泉県であるから〜」といった旨を回答し、記事になっています(下写真)。
大分県合同新聞の記事によると、大分県は「登録が認められても、独り占めする気はない」とコメントしていますが、たとえその通りであっても、その言葉を公的・対外的に使うとなるとやはり意識して、ブレーキがかかってしまうと思います。当所としても「それは困ったなぁ」というところが本音ですし、「使うことになった段階で制約がかからないか心配」という他県の担当者の声にも同感です。

大分県は香川県が打ち出した「うどん県」に倣ったようですが、今回の件はこれとは同列にはできない事例であることは間違いありません。それは当所が環境省のデータを基に独自算出している「データでみる温泉番付」を見ればわかります。
 
 

2005年(平成17年)11月26日 上毛新聞1面より
(温泉県の用例)

 
群馬県は名実ともに「おんせん県」であることに疑いはありませんが、現在、当所による温泉番付ベスト10からは外れています。一口に温泉とは言っても多様な側面があ り、すべてが数値化できるわけでもありません。このランクインの背景をよく考察すれば、ある一面だけを切り取って「日本一のおんせん県」と標榜することは適切ではないことがわかるはずです。 よって、温泉番付でトップ10入りしている県はすべて「おんせん県」の資格がありますし、トップ10から外れていても、温泉の利用で著名であり、文化を持つ県は、たとえデータ上で何位であっても「 おんせん県」なのです。

本稿を執筆している2012年11月13日現在では、大分県がどのような内容で申請したのか、特許庁のデータベースからは確認できません。単純に「おんせん県」のみの単語ではなく、前後になんらかの文言が付加されている可能性もあります。古来、温泉が盛んな県が「温泉県」と名乗ること自体はおかしな話ではなく、むしろ合理的な話です。 今後の結果がどうであれ、その合理性は幅広く多様な主体において自由に発揮されるべきです。特定の意思によって損なわれたり、はばかられたりすることがないよう、関係者の方にはとくに配慮を望みます。

日本温泉総合研究所