温泉と観光の principle を追及する純民間の調査研究・コンサルティング会社です

 

 
 

 

 

 

2009年2月3日

 

 

【環境省パブリックコメント】 「温泉資源の保護に関するガイドライン(案)」に対する意見書

 

環境省は、「温泉資源の保護に関するガイドライン(案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)を2009年1月15日より2月3日にかけて募集しました。当研究所では、このパブリックコメントに対して以下の意見を提出しましたので、 以下、送付原文のままで公開いたします。

ガイドライン(案)の内容、パブリックコメントの詳細はこちら(環境省HP)をご覧ください。

「温泉資源の保護に関するガイドライン(案)に対する意見」

 
今日の温泉は実に複雑な問題と矛盾を抱えているが、その根源は温泉法にある。また、温泉法は温泉行政の拠りどころとなるため、その矛盾は本ガイドライン(案)にも影響しているように見える。よって、「温泉資源の保護」という観点では歯切れは悪く、ガイドラインとしては抽象的で何を示したいのかもよくわからない。

温泉法第二章では「温泉の保護」とうたっているが、同章にある第四条は、実は「掘削許可を与えること」を前提としていて、矛盾がある。一応、「既存の温泉に影響を及ぼすと認めるときを除いて」等の但し書きがあるものの、その基準は明確ではなく、資源保護の抑止力とはなっていない。それゆえ、本ガイドラインは温泉法第四条の但し書き一、二や第十条などに実効性をもたせるために科学的根拠の強化をめざそうとしたのものであることは理解できるが、温泉法が抱えている矛盾を前提としている以上、「温泉資源の保護」という明確な方向性でのガイドラインなど、もともとできるはずがないのではないか。

そのことは本ガイドライン1ページにある「背景」の冒頭6行目以降で「〜十分な科学的根拠に基づき、許可及び採取制限命令を行うことは難しい現状にある」と吐露しているように、現状においては第四条の但し書きや第十条などがほとんど絵空事に近いことは、群馬、石川での掘削を巡る裁判で、一審、二審と相次いで敗訴していることからも明らかである。

また、矛盾した温泉法を念頭にしている以上、内容の焦点も定まってこない。本ガイドライン8ページ「2.掘削等の原則禁止区域の設定」の「(1)考え方」において二転、三転した上、あいまいな結論となる記述を読めば如実にわかる。さらに同記述中にある「温泉の掘削等の影響の事前予測は、地中での影響の確実な予測はできないこと、影響は複数の掘削等により複合的に発生するため一の掘削等による影響を区別できないこと等の限界がある」といった脆弱な背景の上で、確立された技術論や論文レベルで認められる内容を展開しても、都道府県の担当者にとって判断材料となるガイドラインにはなり得ない。論理や筋道に一貫性がないので、温泉資源の保護や予期される影響の予防に役立つとは、素人が見ても思えないのである。

温泉法は昭和23年に施行された。その間、泉源の数、ゆう出量は飛躍的に増大している。それは温泉法第四条が正しく機能していることを示し、群馬、石川の判決はそのことを法的に是認したに過ぎない。これは明らかに「資源保護」とは矛盾した流れだが、それに対して環境省に異論があるのなら、これまでの温泉法に対する不作為を真摯に反省し、第四条ほかについての見直しに取り組むべきだろうが、その姿勢が示されることはあるのだろうか。温泉法がその不備により、法の合理性によって打ち負かされているという現実を、もっと重く見るべきだ。

本ガイドライン(案)作成に当たっての状況認識も甘い。2ページ「本ガイドラインのねらい」の2点目に「温泉保護の取り組みの標準をしめすのではなく、便利な参考資料となることである」という状況認識はいったいどこからくるものなのか。また、1ページ「第一 基本的な考え方」の「1.背景」にある「温泉資源の保護を名目に、新規の温泉の掘削等を過度に制限しているケースもあるとの指摘もある」との書き方(言葉の選択)は、いかなる真意に基づくものなのか。穿ち過ぎかもしれないが、このガイドラインは読めば読むほど資源保護の姿勢に対して一貫性のない不可解な文書に思えてくるのである。

以上のことから、温泉資源の保護についてのガイドラインの必要性は間違いないが、現状では資源保護ではなく、今後も掘削許可を限りなく出し続けていくことを前提とした「温泉資源の分配と調整のためのガイドライン」と解した方がすっきりとする。もし資源保護を前面に押し出すのなら、環境省がこれまでの温泉法に対する不作為を見つめなおし、大元となる温泉法の視点から意識を根本的に改めない限り、ガイドラインがどんなに秀逸であってもその意味をなさない。よって、それでもなお現行の(案)により資源保護を前提として意味あるガイドラインをめざすのであれば、以下の点に留意されるよう要望したい。

1. 環境省として「資源保護」についての考え方を明確に示す (大局について)

→これまで何度も指摘されているように温泉法そのものが資源保護に対して脆弱である。法をいじるのは容易ではないが、まずは環境省として「どのような考え」なのか強いプレゼンスを示して欲しい。資源保護をうたうなら、新規掘削を認めるハードルは高くするべきであり、そのための法改正も視野に入れた取り組みも必要だ。それを前提とした強い姿勢を示すガイドラインでない限り、環境省の姿は国民の目に、海中でゆらゆらしているワカメのそれと変わらなく映るだろう。

2.本ガイドラインの具体性を担保するための確かな取り組みと予算措置 (ガイドライン全体について)

→「2.本ガイドラインのねらい」の「第3点目」で「環境省では、引き続き、温泉資源に関する各種調査を実施し、」とあるが、どれだけ本気で取り組むつもりなのか不明である。既存泉源の距離や深度、その他のデータが法廷の維持にも耐えうる科学的知見を集積することは、容易なことではないはずだ。法的な観点も踏まえ、それなりの予算規模と構想力のある長期的な取り組みが必要になるが、そのための枠組みをガイドラインとは別に、きちんと示してほしい。もはや特定者に形式的な調査を依頼し、おざなりの報告書でお茶を濁す段階ではない。

3.未利用泉源の取り扱いについて厳しくする (p14について)

→未利用泉源の実態把握を急ぎ、既存泉源と同様の取り扱いとすべき。このためには、定期的な申請や確認などのプロセスの必要性や、一定期間申請や利用がない場合は廃止措置を取れるよう検討すべき。

4.同意書の位置づけ強化 (p16について)

→同意書を求める方式は過剰な温泉開発の防止に多大な役割を果たしてきたことから、行政指導の範囲内であるにせよ、より踏み込んだ内容のガイドラインを構成できるよう検討すべき。現状では消極的に見える。

5.事業者サイドでの自主防衛(モニタリング)の促進 (p19)

→「第四 温泉の採取による影響とモニタリング」は重要課題である。実現可能性としては上記1〜4のなかでもっとも確実であり、とくに泉源の所有者である各事業者や組合等での自主防衛手段として最有力でもあることから、ガイドラインでは特に重視すべき。有事に備え、具体的なデータをいつでも出せるよう事業者、組合単位でモニタリングに取り
組むことを促すべき。また、ガイドラインとは別途に支援措置(資金・ノウハウ等の提供)なども早急に検討すべき。

以上、温泉大国・日本として、温泉の乱開発抑止を目的とした世界にも誇れる内容のガイドラインを策定されることを切に希望する。
 

2009.02.03投稿

日本温泉総合研究所