月別アーカイブ: 2015年4月

【リリース短信 -4- 】  2013年度版 日本の温泉データ公開にあたって

2015年4月30日、「日本の温泉データ2013」を公開しました。以下、数値上、特異性が見られた事項について、留意点としてお知らせいたします。

【温泉地数について】
今回、対前年で温泉地は74カ所増えています。特異な数値としては、山梨県の61カ所増(2012年度:28カ所→2013年度:89カ所)が挙げられます。環境省の定義では「宿泊施設がある場所」となっているため、1軒宿も温泉地にカウントされます。ところが、宿泊施設数では2012年度:256施設から2013年度:232施設に減っています。これではどうも計算が合いそうになく、不自然です。そこで山梨県の温泉を管轄する森林環境部大気水質保全課に問い合わせをいたしましたが、「理由はわからない」という回答でした。
このほか、宮城県でも36カ所増となっていますが、宿泊施設数は前年度とほぼ同じです。
このように、温泉地数の変動については毎年、どこかの県で不自然な変動があるので注意を要します。参考:2012年度版の温泉地数について

【泉源数】
秋田県:100カ所増 (2012年度:512カ所→2013年度:612カ所)

【対前年で温泉利用がもっとも変化が見られた地域】
京都府の温泉利用で大きな変化が見られました。
・温泉地数:対前年で-1カ所(2012年度:40カ所→2013年度:39カ所)
・利用泉源数:47カ所増 (2012年度:46カ所→2013年度:93カ所)
・温泉施設:42カ所*増 (2012年度:197カ所→2013年度:239カ所)
*このうち、日帰り施設は24カ所
・ゆう出量:毎分5,340リットル増  (2012年度:11,666リットル→2013年度:17,006リットル)
・延べ宿泊利用人員:854,035人増(2012年度:364,380人→2013年度:1,218,415人)

以上、2013年度版における留意点となります。

 

 

 

【温泉雑感 -3- 】 温泉教授・松田忠徳氏と『温泉批評』誌

所要のついでに立ち寄った書店で「温泉批評2015春夏号」が売られているのを見かけた。パラパラと立ち読みをはじめたところ、気になる記事を見つけたので躊躇なく買い求めた。

気になる記事とは、「-温泉教授に聞く-松田忠徳という生き方」と題したインタビュー記事であり、さらに具体的な箇所を言うならば、p116~117の酸化還元電位に関する松田氏の言い分である。

実は、我々は氏がこれまで同誌に執筆した複数の記事のなかで、酸化還元電位ほか関連事項について記述や主張に誤りがあることを編集部に指摘していた。編集部としては、それに応える形でインタビュー記事に盛り込んだつもりなのだろうが、残念ながら体をなしていない。

科学に限った話ではないが、物事には必ず「約束事」というものがある。それは基本事項であり、共通認識であり、作法でもある。そのことが担保されているからこそ、議論もできるし、信頼もできる。ところが、氏の場合はその観点がまったく無視されている。すべてが独善的な解釈で行われているのだ。

識者なら記事を読めばすぐにわかるだろう。話が無茶苦茶である。「目安」「目安」を繰り返す氏の発言は、都合の良い部分を継ぎ接ぎした言い訳に過ぎない。基本的なルールがまったく無視され、手順の正確さの担保すらないデータは、「目安」にもならないのだ。「ORP計は水素電極のものも塩化銀電極のものも使用している」そうであるが、氏は自身の発言が何を意味するのか理解しているのだろうか。唾液の酸化還元電位に関連してと思われる話に至っては、「野菜を食べるより温泉に入浴する方が効果的にミネラルを身体に吸収できる」といったマッド・サイエンスぶりまで発揮している。しかし、インタビュアーはその発言に疑問を呈することもなく、「それができれば本当に魅力的ですね」と応じ、松田氏の将来的な研究ビジョンの紹介へと話を結び付けていく。指摘するインタビュアーも、指摘される氏も、事の本質をよく理解できていない者同士なので、話の焦点が定まるはずもない。結果的に、一時の歓談により氏の主張を追認することになっただけの話であり、見方を変えれば、体よくはぐらかされただけのことである。権威というものは、マスコミを媒介にして、このようにして保たれていくのだろう。想定される読者層を思えばどうでもいい話題であろうし、仕方がないと思えばそれまでの話だが、事はそう単純ではない。

氏の言説がいやらしいのは、至極もっともな意見の中に誤謬がそこかしこに潜んでいることだ。しかも、そのことに当の本人は気づかずにいる。悪気もなく完全になりきっているのだ。そこへ著名であることや大学教授や博士号といった肩書が付加されるので、何の事情も知らずに真に受けるマスコミや一般人には疑うべき理由は何一つなく、信仰の対象にすらなり得えている。それだけに、ひとたび道を踏み外すとたいへん厄介である。その具体例が山口県の俵山温泉をはじめ福島県の高湯温泉(その内容の一部についてはこちら)、三重県の榊原温泉ほか各地で氏が語る「溶存水素」や「酸化還元電位」についての、誤謬に満ちた不用意な言説の数々である。

それにしても、どうして氏は自分にとって都合のいい解釈ばかりを次から次へと繰り出せるのだろうか。もともと「科学は苦手だ」といっていた氏が、「科学的」「医学的」という枕詞を意図的に多用するようになったのは、ここ数年のことであるが、実のところ見せる態度は「文学的」であり、「非科学的」である。氏は人一倍勉強熱心で、本をたくさん読み、温泉に対する情熱の深さは広く知られるところではある。しかし、どんなに「科学」や「医学」の衣をまとってみたところで、根本的な思考が「非科学的」であるために限界がある。これは資質の問題と言っていい。

たとえば、これはよく以前から指摘されていることだが、氏の出世作である『列島縦断2500湯』巻末の入浴リストには、同じ施設が複数回カウントされていたり、風呂のない施設まで登場したりしているが、似たような間違いは氏の著作ではよく見かけることだ。些細なことかもしれないが、このような統計処理的な杜撰さ、目配りのなさは、「科学」や「医学」を扱う上では致命的だ。我々の科学的 (といっても極めて基礎的・初歩的な事項だが・・・) な指摘に対して、「目安としてはそれでいい」とアバウトな返答に終始しているのもその表れである。

つまり、氏は「科学」や「医学」を語り、実践するほどの緻密さ、繊細という姿勢や素養は有していない。要するにその分野には「向いていない(センスがない)」のである。よって、「科学的」「医学的」要素での無理なつまみ食いによる不用意な言説の撒き散らしを慎み、本来の土俵である「温泉文化論」という里に回帰すべきだ。

ここで誤解なきよう明記しておくが、本稿は松田忠徳氏の否定を目的としているわけではない。我々が問題視しているのは、「科学的」という言葉を多用しながら、実際は科学を弄している氏の姿勢であり、軌道修正を促しているのである。具体的には、以下の2点についての誤った言説を是正することにある。

1. 俵山温泉ほかでの溶存水素にまつわる誤謬の流布
2. 上記に関連して各地で語られている酸化還元電位をめぐる誤謬の流布

冒頭の『温泉批評』誌インタビュー記事でのやりとりは、上記1、2の問題に起因してのことであり、その関連として本稿を記さざるを得ない状況に至ったためである。それ以外の他意はない。

なお、特に上記1について、我々は「不当表示」に当たる深刻な社会問題であると捉えている。この問題については、解決されるまで継続的に取り上げていく考えである。

【2015年11月30日追記】
俵山温泉の問題について解決の兆しが見えないため以下のページで問題提起しました。
「俵山温泉、山中温泉に高濃度の溶存水素は存在しない」

関連情報: 「こんな科学のメスは、もういらない」
『温泉はなぜ体にいいのか』(松田忠徳著/平凡社刊)への指摘