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2011年12月20日

 

温泉の酸化還元電位(ORP)に関する注意事項

酸化還元電位は、正しい理解のもとで行えば、水や温泉、溶液の状態をおおむね反映する有用な評価指標の一つとなります。ところがインターネット上には、温泉や水の酸化還元電位について誤った情報が氾濫しています。発信者の大半は学識者ではなく、業者や一般人によるものであるため、「酸化還元電位がマイナスで凄い!」といった定番文句から、酸化・還元と酸性・アルカリ性を混同して語られている例に至るまで、思い込みや勘違い、間違いに基づく意味不明な情報が目立ちます。最近は、学識者であるはずの大学教授の肩書を持つ方がこうした情報を鵜呑みにして、誤った情報をマスコミを通じて拡散させる困った事例も見られます。性能や信頼性を問わなければ安価な酸化還元電位計が容易に入手でき、その他の分析装置に比べるとある意味、誰もが手を出しやすい「デフレ状態」にあることが背景にあります。

酸化還元電位計は数値で表示され、とても分かりやすい訴求力をもっているため、どうしてもプラスの値が「劣」、マイナスの値が「優」といった数字論が基準となり、すべてを判断する傾向に陥りがちです。しかし、それは酸化還元電位を正しく理解していない人が展開する論調です。とくに成分が複雑に関与する温泉においては、数値の高低のみで他の温泉と比較をしたり、優劣の判断をしたりすることはできません。酸化還元電位による評価は数値の高低ではなく、その数値が何を意味しているのかを見極めることが重要です。

以下、よく見かける「問題点」や「勘違い」を列記してみました。


■ 酸化還元電位は用いる電極により数値が異なる

酸化還元電位とは、水素ガス分圧が1気圧、水素イオンの活量が1の時、電極の電位を0ボルトと定義しています。この時、使用されるべき電極を「標準水素電極」と言います。ところが、水素電極は水素ガスを飽和させながら測定する必要があるので、設備が整った実験室でもない限り測定は困難です。そこでもっと簡便に測定するため、代用となる電極により測定することが普及しています。それにはいくつかの種類があり、昔は塩化第一水銀を使ったカロメル電極(甘こう電極)が一般的でしたが、現在は、3.33mol/L (0℃=飽和濃度) の塩化カリウムを内部液とした銀/塩化銀電極が主流となっています。この場合、測定値は「標準水素電極」で測定した場合とは大きく異なり、測定対象の温度にもよりますが、おおむね200ミリボルト前後の差がでます。つまり、市販されている一般的な酸化還元電位計で測定し、マイナス
100ミリボルトと表示された場合、酸化還元電位の定義 に基づく標準酸化還元電位(標準電極電位)の値に換算すると、温度により違いがありますが、実際はプラス100ミリボルト前後になるということです (この換算は用いる電極により異なります)。よって、本来は測定した値は標準酸化還元電位に換算した上で示さなくてはなりません。それが約束事になっているからです。

ところが、市販書籍やネット上でみかける値の99%は、その基本的な約束事項を理解していないために無視され、酸化還元電位計に示された値がそのまま用いられています。このことから、「酸化還元電位はマイナス」と優位性をアピールする宣伝には注意が必要で、実際にはプラスの値であるか、それに近い状態となっている例も多く見られます。根拠が明示されていない数値のときは注意が必要です。当然のことながら、当所で示す値はすべて標準 酸化還元電位に換算された値を用いています。

■ 酸化還元電位の値はpHによって意味が異なる

酸化還元電位は、それ単体では意味を成しません。かならず、pHとともに判断する必要があります。なぜなら、酸化還元電位はpHの関数でもあり、pHが変化すると酸化還元電位の意味もそれに応じて変動するからです。同じ酸化還元電位でも対応するpHによって、持つ意味が大きく変わる場合もあります。市中の書籍やインターネット上には、酸化還元電位がpHにより変化するという基本的な挙動も知らずに、酸化還元電位を語っている例がたくさんみられます。

【図1  pHにより意味か異なる酸化還元電位】

 

たとえば、 標準酸化還元電位で+500mVの温泉が3種類あるとします。pH5のA温泉は還元系です。しかし、pH7のB温泉では平衡系となり、pH9のC温泉では塩素消毒された酸化系の温泉に該当することを意味しています。このように、同じ電位でもpHの違いにより、電位が持つ意味が異なるものであることがわかります。温泉の場合、基準となるのは赤線の平衡系のラインとなりますので、図中の破線を下にさげることでA〜Cのすべての温泉が還元系の範囲内に収まったとしても、還元性の度合いとして同じ電位であっても、pHによって意味が異なることがわかります。よって、A〜Cの温泉を同じ土俵で語ることはできません。

酸化還元電位がマイナスを示せば凄いわけではない

インターネット上でよく見かけるのが、「○○温泉の酸化還元電位はマイナス○mVで凄い!」といった表現です。酸化還元電位の話になると、どうしても電位がマイナスを示すことが優位であるという論調に陥りがちですが、必ずしもマイナスを示すことが「凄い」と言うわけではありません。

以下の図2では、電位 (いずれも標準酸化還元電位です) とpHが異なるA〜Cの三つの温泉を例示しています。酸化還元電位のみで論じれば、A温泉の+88mVとC温泉の-100mVを比べれば、値がマイナスであるC温泉は「凄い」ということになります。しかし、実はA〜Cの温泉はpHが異なるだけで、酸化還元電位が持っている意味(ポテンシャル)としてはまったく同じなのです。

【図2  pHがシフトするだけで酸化還元電位の意味は変わらない】

つまり、-100mV、pH9のC温泉が、もしpH7であったとしたらB温泉の-6mVに該当し、pH5であったとしたらA温泉の+88mVに該当することを、図2では表しているのです。逆に、+88mV、pH5のA温泉がpH9であれば、C温泉の-100mVに該当するという意味です。

これはどういうことかというと、先にも述べたように酸化還元電位はpHの関数でもあり、pHが変化すると酸化還元電位はそれに応じて変動するからです。温泉 においては、酸化還元電位が持つ意味(ポテンシャル)に変りがなく、ただpHのみが変わった場合は、平衡系である赤線の傾き (0.047pH)と同じの線上でpHに応じて酸化還元電位がシフト します。よって、C温泉の-100mVに対してpHだけを自由に変えられるとすれば、0.047pHの傾きによる破線上で酸化還元電位 はシフトするということです。

ある業者さんのホームページを見ますと「○○には温泉を還元系にする効果がある」とうたわれています。しかし、それは該当商品が強アルカリ性で、それを使用するとpHをアルカリ側に変化させる特性があるため、そのことが原因で酸化還元電位がシフトしただけに過ぎないのです。上図で言えば、B温泉がC温泉になったようなもので、つまり、その商品に酸化還元電位を下げる効果があるのではなく、pHの変化に対応して酸化還元電位がシフトしただけなのです。こうした勘違いはよく見かけることです。


また、ある温泉地のホームページを見ると、pHを考慮せずに、「源泉かけ流しの温泉(浴槽)は+50mVから+100mVが多く、時に−50mVの還元力の強い温泉もあります。しかし、○○温泉のように−100mVとなると稀になります」という宣伝文句が謳われています。しかしそれは、上記一連の酸化還元電位の基本的な挙動を理解していない、独善的な解釈に過ぎないことを表しています。このことから、 酸化還元電位値のみを比較して、どちらが優位であるかという単純な論は適切ではないのです。

■まとめ

 酸化還元電位は数値で表されるものではありますが、その数値のみで温泉のすべてが分かるわけではありません。また、温泉の優劣を表すものでもありません。正しく理解するためには、温泉分析書のほか、調査で得られたさまざまな情報と対比して検討することが必須です。また、酸化還元電位は測定者の経験や見識、使用する測定器の精度、電極の管理状態によっても結果が大きく異なります。酸化還元電位を測る行為自体は誰にでも簡単にできますが、有意なデータを得て、その意味を理解するためには、慎重に精査することが必要です。数値の高低のみで安易に語ることは禁物です。

 

(このページは情勢に応じて随時、情報の追加や入れ替えを行います。現在の最新更新は2015.02.10です)

日本温泉総合研究所