つまり、-100mV、pH 9のC温泉が、もしpH 7であったとしたらB温泉の-6mVに該当し、pH 5であったとしたらA温泉の+88mVに該当することを、図2では表しているのです。逆に、+88mV、pH 5のA温泉がpH 9であれば、C温泉の-100mVに該当するという意味です。
これはどういうことかというと、先にも述べたように酸化還元電位はpHの関数でもあり、pHが変化すると酸化還元電位はそれに応じて変動するからです。温泉
においては、酸化還元電位が持つ意味(ポテンシャル)に変りがなく、ただpHのみが変わった場合は、平衡系である赤線の傾き (0.047pH)と同じの線上でpHに応じて酸化還元電位がシフト
します。よって、C温泉の-100mVに対してpHだけを自由に変えられるとすれば、0.047pHの傾きによる破線上で酸化還元電位
はシフトするということです。
ある業者さんのホームページを見ますと「○○には温泉を還元系にする効果がある」とうたわれています。しかし、それは該当商品が強アルカリ性で、それを使用するとpHをアルカリ側に変化させる特性があるため、そのことが原因で酸化還元電位がシフトしただけに過ぎないのです。上図で言えば、B温泉がC温泉になったようなもので、つまり、その商品に酸化還元電位を下げる効果があるのではなく、pHの変化に対応して酸化還元電位がシフトしただけなのです。こうした勘違いはよく見かけることです。
また、ある温泉地のホームページを見ると、pHを考慮せずに、「源泉かけ流しの温泉(浴槽)は+50mVから+100mVが多く、時に−50mVの還元力の強い温泉もあります。しかし、○○温泉のように−100mVとなると稀になります」という宣伝文句が謳われています。しかしそれは、上記一連の酸化還元電位の基本的な挙動を理解していない、独善的な解釈に
よる「大本営発表」に過ぎないことを表しています。このことから、
酸化還元電位値のみを比較して、どちらが優位であるかという単純な論は適切ではないのです。
■まとめ
酸化還元電位は数値で表されるものではありますが、その数値のみで温泉のすべてが分かるわけではありません。また、温泉の優劣を表すものでもありません。正しく理解するためには、温泉分析書のほか、調査で得られたさまざまな情報と対比して検討することが必須です。また、酸化還元電位は測定者の経験や見識、使用する測定器の精度、電極の管理状態によっても結果が大きく異なります。酸化還元電位を測る行為自体は誰にでも簡単にできますが、有意なデータを得て、その意味を理解するためには、慎重に精査することが必要です。数値の高低のみで安易に語ることは禁物です。
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